人参湯【西宮・芦屋 鍼灸香春】
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人参湯
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人参(甘微寒)・甘草(甘平)
白朮(苦温)・乾姜(辛温)3
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本方はいわゆる「太陰病」に分類されます。「太陰病」は消化管の冷えによる機能停滞を原因とした
病態が多いのですが、本来熱を持ちやすい筈の胃腸が却って冷え込んでしまったという、「寒」の病態を
呈した時が『人参湯』の出番になります。このような病態を漢方医学的には「霍乱(カクラン)」といいます。
ただ、このような状態を冷えの「陽明病」とすることもあるようです。これは陽明経に属する胃を冷やした
と考えてのことだと思われます。
ともあれなんらかの理由で「胃腸を冷やしたことで消化器の機能低下を起こした」時に使う漢方薬です。
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例えばクーラーを利かせた部屋でアイスクリームを食べ過ぎて下痢や嘔吐、発熱を引き起こした時など
です。「寒」によって病を引き起こされることを「中寒(チュウカン)」といいますが、このような時はお腹を
温めるのも効果的です。発熱があるからと冷やしたりするとかえって悪化しますので、夏場だと熱射病と
勘違いされて重症化させてしまうこともしばしば見られます。
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本方を構成する生薬は「人参」「甘草」「白朮」「乾姜」で、大まかにはどれも温める生薬なんですが、
人参だけは薬効が「甘微寒」になっています。甘味はともかく、微寒になっていますね。鍼灸師になった
ばかりの頃に、これは何なんだろうかと調べたことがあるんですが、寒というのは冷やすという意味も
あるんですが、この場合は水(津液)を増やすという作用のことを指しているようです。
このあたりが面白い所で、水が増えると冷えてしまうんじゃないかと思われがちですが、漢方医学的には
水というのは大まかに二種類あります。1つは生理的な機能をもった水で、これを「津液(シンエキ)」といい
ます。もう1つは生理的な働きを失った水で、「痰」「飲」などと呼ばれます。こちらは病の原因になる
「病理産生物」であり、冷え症や浮腫みの直接的な原因になります。
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人参が寒の作用で増やすのは、このうちの「津液」の方です。津液は、いわばウェットスーツに入れて
おく水のようなもので、これを腎の陽気(命門)で温水に温めておくことで保温や防寒に役立てている
ようです。また胃液も津液ですので、温水で冷え切った胃腸を温めるということもできます。
冷えているものを温水(津液)で温めるという理屈ですが、ここには脾胃や津液だけでなく、腎陽も
絡みますし、腎陽の供給源は心包(心の熱)で、その経路には膀胱経や少陰経といった経絡が関与して
います。また、身体を温めるという意味では三焦経も影響するでしょう。
つまり同じような症状であっても必ず人参湯がよいというわけではなく、腎陽のトラブルの方が大きく
冷えが顕著であるなら『真武湯』がよいでしょうし、食欲低下が激しいなら脾陽が原因だとみて、
『六君子湯』を選択するなどという応用が必要になります。
人参湯の適用
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『人参湯』は胃腸が冷えているというのが基本となるため、胃内停水があってお腹がちゃぷちゃぷと鳴る
ことがあります。下痢しやすく、さらさらとした生唾が口に溜まり、喋る時には口角に唾が溜まります。
透明な小便がよく出て手足もよく冷えます。冷えているため喉は渇かず、温飲することを好みます。
食欲も捗りません。排泄するとどっと疲れたりします。急性の場合は、冷えているにもかかわらず発熱が
あり、悪寒を感じます。そのため『麻黄湯』などで発散を促すのはよくありません。身体の内にも外にも
陽気がなくなってしまうので、かえって悪化することが考えられます。
総じていうと、脾胃に陽気がない状態ですから、太陰脾⇒陽明胃の発散の連携がうまくできていないもの
と思われます。そのため本方で胃腸を温めて陽気を巡らせるのが、最も適切な治療法だと思われます。
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【適応疾患】
本方は食欲不振や胃もたれ、胃内停水、胃酸過多・過少、胃下垂、腸炎、胃癌などの消化器系疾患を
中心に、そこから派生する冷え症や下痢、頻尿、疲労症、自家中毒などが対象になります。また、胃が
冷えたことによって陽気が安定せず、口腔へ向かえば口内炎、胸に留まれば動悸、頚肩へ波及すれば
頚・肩こりの原因になりますから、これらも守備範囲です。女性の場合は生理不順や悪阻、産後の肥立ちが
悪い時にも使えます。胃腸の不調は栄養供給に関係しますから、神経衰弱なども引き起こすことがあります。
こういった疾患でお悩みの方は『人参湯』を考えてみられるとよいと思います。
(『宋版傷寒論』『金匱要略解説(金子幸夫)』『漢方医学体系(龍野一雄)』『大塚敬節著作集』
『中医臨床のための方剤学(神戸中医学研究会)』『漢方主治症総覧(池田政一)』より)
芦屋・西宮 鍼灸 香春(こうしゅん)【JR芦屋徒歩6分】