五苓散【西宮・芦屋 鍼灸香春】

 

 

猪苓(甘平)・茯苓(甘平)・白朮(苦温)1.8

澤瀉(甘寒)3.05、桂枝(辛温)1.2

 吐き気嘔吐下痢といった体内の水分代謝トラブルに使われる漢方薬『五苓散』が今回のテーマです。

他には浮腫、めまい、頭痛などにも効果的で、具体的には糖尿、ネフローゼなどに用いられます。

 確かにお腹がちゃぷちゃぷする胃内停水が確認され、『金匱要略』に水の病として登場しているため、

除湿、排水の漢方とされるのも仕方ないことですが、実は本方は熱病の後遺症、誤治の薬としての側面が

あるため、その本質には内熱が潜んでいることが指摘されています。

 つまり、発熱時に発汗させ過ぎて、体表を守る陽気まで失ってしまった状態で、加えて発汗のために

水分が枯渇してのどが乾いています。これは熱邪が膀胱経に入った状態で、水分代謝が悪化して上半身は

渇き、胃腸から下には水が溜まっているのです。熱邪のために胃腸~膀胱が湿熱状態となり、膀胱経も

機能しにくくなっているので、小便が出づらくなっており、水分代謝は更に悪化しています。

 その一方で上半身は渇くために水を飲みたがり、しかし、胃には消化されていない水が溜まっている

ので、飲んだ水は吐き出してしまいます。

 『五苓散』はこのような「口が乾いて小便が出ず、水滞がある」場合に用いて、小便の通じをつける

漢方薬です。水が流れて代謝機能が戻れば、自然と胃腸の湿熱も解消されるのです。

 

 細かく見ると「白朮」「茯苓」で胃内停水を吸収して、「澤瀉」「猪苓」で利尿を促して処理します。

「桂枝」は脾胃の機能を回復させて体表の衛気を補充します。

 類似方に『四苓湯』というものがありますが、これは本方から「桂枝」を去った方剤です。用途は似た

ような感じなのですが、「桂枝」には上半身の陽気を下へと導く作用がありますから、熱による口渇や

逆上せがあるなら入っている方が望ましい生薬です。また、陽気が動くと水も一緒に動きますから、

排尿を促す作用もあります。正直なところ、『四苓湯』を選択するメリットはあまりないと思われます。

 本方の適用は膀胱の機能不全のために脾胃に水滞を起こしている場合ということになりますが、似た

様な効果の漢方薬にメニエール病やめまいに使われる『苓桂朮甘湯』というものもあります。こちらは

腎の冷えが主体となってめまいや浮腫を引き起こしている場合に使います。

 

【適応疾患】

 小便が出にくいため下痢をしていることが多く、痰飲によるめまいや頭痛を抱えています。発熱や胃腸

機能低下時に起きる嘔吐+下痢の症状に効果的で、使用条件に一致するなら糖尿や腎炎、水疱性の皮膚病

(ヘルペスなど)、癲癇、不眠熱中症夏バテによく用いられます。

 意外な所では夜尿症、仮性近視、脱毛などにつかれた例も見られます。そして一番よく使われるのが

二日酔いでしょうか。事前でも事後でも服用しておけば、アルコールの影響を大きく軽減できます。

(『宋版傷寒論』『金匱要略解説(金子幸夫)』『漢方医学体系(龍野一雄)』『大塚敬節著作集

 『漢方主治症総覧(池田政一)』『中医臨床のための方剤学(神戸中医学研究会)』

 『薬方愚解(木田一歩)』より)

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