『薬方愚解(木田一歩)』
東洋医学の勉強は楽しくも大変ですが、今回はそんな楽しい苦行をこなす私の勉強効率を大幅に
底上げしてくれる良書に出会えたので紹介させていただきます。
正直、素人の方には難しいと思いますので、暇つぶし程度に。
漢方の解説本は世に多くありますが、大体が病気の名前と症状を示して、それを漢方に結び付けると
いう形式をとっています。
例えば【風邪・感冒初期】という病名に対し、汗をしっとりとかくなら『桂枝湯』、汗をかかないなら
『葛根湯』とか、関節痛があるなら『麻黄湯』とか、まあ、そんな具合に【病名】【症状】【漢方】と
分類・連携して紹介しているわけです。
これは漢方の古典書籍である『傷寒論』『金匱要略』なども基本的にこの形式ですから、漢方を勉強
するにあたって、このパターンを踏襲することはよいことでもあるといえます。
ただ、漢方を勉強していると、ほとんど同じ症状なのに対応する薬が違っていたり、どうしても割り
切れない症状に出会ったりすることになります。そういう時に頭を悩ませることになるんですが、その
原因は“原理”を知らないからです。“原理”というのは“仕組み”とか“論理”と言い換えてもよいと思います。
要するに、どうしてその漢方薬が、特定の条件の病気に効果があるかを理解するということです。
これを“病理”といいます。東洋医学でいうと、陰陽とか虚実とか、寒熱とかで説明されることの多い、
例のあれです。これらの言葉を使って、身体の中に起きている変化を説明しているわけです。
“病理状態”ですね。
漢方や鍼灸といった東洋医学が難解なのは、この“原理”を理解して、“病理状態”を推測するという過程が
複雑であるためです。
とはいえ、ここを放棄すると「漢方の名前を知っている一般人」と同レベルになってしまうので、せめて
このくらいの勉強はしないといけないわけです。
なぜ風邪の漢方に『葛根湯』『桂枝湯』『麻黄湯』『小青竜湯』などの種類があるのか。逆になぜ葛根湯
は風邪だけでなく肩こりや結膜炎、中耳炎などにも効果があるのか。
これは“病理状態”が異なるから、症状も異なり、対応する漢方も異なるわけですし、“病理状態”が同じ
だから、異なった症状に同じ漢方が効果をもたらすわけです。ここを理解することができれば、対応できる
疾患は確実に増えます。対応できる、というか効果を上げれるようになります。これは鍼灸でも同じです。
そういう意味で、“原理”ー“病理状態”の連続性を理解することは必須なのです。
その点で、本書の“病理状態”の解説は秀逸で本当に素晴らしい本です。実際、漢方薬の効用と、その漢方を
用いるべき人間の“病理状態”を解説している本は珍しいです。
ツボと漢方を結びつけている本なら『傷寒論による漢方と鍼灸の統合診療(小倉重成)』など、私も何冊か
知っていますが、病理にまで踏み込んだものはあまり見かけません。池田政一先生くらいでしょうか。
他にもあるにはあると思うんですが…。
ともあれ、本当に勉強になる本でした。
この成果を必ず患者の方々に還元できるよう邁進してゆきたいと思います。
芦屋・西宮 鍼灸 香春(こうしゅん)【JR芦屋徒歩6分】
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