半夏白朮天麻湯【西宮・芦屋 鍼灸香春】
半夏白朮天麻湯
乾姜(辛温)・生姜(辛温)0.5、天麻(辛温)・神麹・麦芽(甘平)2
蒼朮(苦温)・茯苓(甘平)・白朮(苦温)・半夏(辛平)・陳皮(辛温)3
黄柏(苦寒)1、黄耆(甘微温)・澤瀉(甘寒)・人参(甘微寒)1.5
『半夏白朮天麻湯』はめまい、メニエール病の漢方薬として有名ですね。天候の悪い時に悪化する傾向が
ある場合に使うという解説文をよく見かけます。確かにそんな感じの薬ですが、それだけだと『五苓散』や
『真武湯』と区別がつかなくなってしまいますし、病理的には頭痛に使う『呉茱萸湯』にも似ています。
そんな『半夏白朮天麻湯』ですが、特徴を一文で表すなら「腎陽虚+脾胃虚弱からの痰飲によるめまい」
があることが目標になります。めまいではなく、頭痛や吐き気、頭重感が主症状になる場合もあります。
【半夏白朮天麻湯の病理】
本方が適応する方には「腎陽虚」と「脾胃虚弱」の基本的要因(素因)があります。
「腎陽虚」というのは身体深部の冷えをいい、そのために消化器系が冷え切って、消化吸収機能の低下を
起こしている状態です。水分が吸収されないため排尿まで持っていけず、体内で痰や飲(イン)といった
不要な病理産生物となって停滞しているのです。これを「痰濁(タンダク)」と呼びますが、この「痰濁」が
影響して、メニエル病、めまい、嘔吐、頭痛、頭重などを引き起こしています。
【半夏白朮天麻湯の作用】
つまり、本方は腎陽を盛んにして身体を温め、胃腸を活気づけて「痰濁」を処理する処方だといえます。
「乾姜」「天麻」は腎陽を補い、「半夏」「白朮」「陳皮」「茯苓」で痰や飲の処理を補助します。そして
「生姜」「人参」「黄耆」などは弱った消化器系を回復させます。
比較される『五苓散』は胃腸に痰飲が溜まってはいますが、上半身には熱があるため咽喉が渇きます。
『真武湯』はよく似た病理状態ですが、より腎陽が弱体しています。そのため水気が治まらず、冷え症状や
冷えによる疾患を呈している状態です。それを「炮附子」で改善しようとしています。
『呉茱萸湯』もお腹の冷えがあります。その反面、胃腸の熱が陽明経を伝って頭へ上るため、強烈な頭痛を
誘発する場合に使います。『半夏白朮天麻湯』の頭痛は痰濁によるものですから、ここが相違点になります。
【適応疾患】
胃腸が弱く、痰飲を溜め込んでいるため、天候が悪くなって雨が近くなると湿気に反応して症状が悪化
します。胃腸に水気が多いのだから軟便、水下痢となります。食後に眠くなる傾向が強く、手足も重だるい
感じですが、これらも胃腸の不良が原因です。
また胃腸の冷えは腎陽が弱くなっているためで、冷え症、特に足部の冷えを引き起こします。
このようなタイプの胃下垂や蓄膿、ノイローゼ、不眠、頭痛、肩こり、眩暈、高血圧、低血圧、疲労感
などに効果的です。
過飲食によって胃腸に負担をかけすぎないよう、気を付けておくと症状は緩和されることが多いです。
(『脾胃論(李東垣)』『大塚敬節著作集』『漢方主治症総覧(池田政一)』
『中医臨床のための方剤学(神戸中医学研究会)』『薬方愚解(木田一歩)』より)
芦屋・西宮 鍼灸 香春(こうしゅん)【JR芦屋徒歩6分】