【回答】周辺知識の有無は判断基準になりません

　やたらと検査表の数値や施術様式、有名な先生の論文などに詳しい人がいます。もちろん知っているのは

よいことです。しかし、この類の周辺知識は「サッカーに詳しい」のであって「サッカーが上手い」という

ことではありません。

　知っているということは重要ですが、私たち鍼灸師や漢方家は観客ではありません。最後にシュートを

決めるのがあなたであっても、私たちもそこまでボールを運ぶプレイヤーの１人です。あなたの第２希望が

「不妊治療についてじっくり語り合いたい」というものなら、この類の先生がおすすめですが、鍼灸師や

漢方家が磨いておくべきなのはその知識と技術です。知っておくことは大切ですが、ここが欠けていると

絵に描いた餅、ただの漫談になります。

　務めていた不妊鍼灸専門治療院は、検査や説明をしたふりが上手で、患者全員にほぼ同じ内容の説明を

していました。そして施術も処方もほぼ同じパターン。つまりその院長は「資格を持っているだけの素人」

だったわけです。それで8000円とか１万円とか取っていたので、ある意味すごい人ではありました。

決していい意味ではないですが。

　そんなトンデモ院長の特技が「周辺知識にやたら詳しい」だったわけです。本当に詳しかったですよ。

「A病院はそうで、B院ではこう、Ｃ病院ならどう」と。他にも足が浮腫んで冷える人に「どんどん水を

飲んでください」など意味不明なことを宣ったりしていました。なにかの本の受け売りだと思いますが。

　本質に自信のない者ほど周辺知識に依存するものです。

①.そもそも東洋医学に自信がない

　私も意外でしたが、鍼灸師にはこういう人は多いです。

　そこでエビデンスを持ってきて鍼灸の有用性を語ることになるんですが、仮にエビデンスが有用で

あったとしても、イチローが4割打てるからってお前も打てるわけじゃないだろうと。残念ながら

鍼灸は下手な人が打ってもほぼ効果がありません。刺絡とか反応点なら多少の効果はありますが。

　あと、持ってくるエビデンスも発表段階もので、追試や検証を経ていない場合がほとんどで、

有効性も定まっていないことが多いです。今後は様々な検証を経て、有効性が立証された方法が

確立されるかもしれませんが、現段階ではまだありません。

　私なら、周辺知識のアピールが激しい人の場合は逆に警戒します。正直信用できない思いです。

腕組みしてるラーメン屋くらい信用できません。

　それっぽく見せる努力というものは意外と簡単です。だから楽をして稼ぎたい人は専門家を自称

して仕入れた周辺知識をマニュアルに従って開陳するという方法を取ります。ローコストで患者を

獲得できて、効率的だからです。ただ、いくらそんなことに勤しんでも施術技術は向上しませんが。

　東洋医学の知識や技術は、天才でもなければ、身につけるのに膨大な時間が掛かります。患者を

診立てる技術、ツボを選ぶ知識、鍼を刺す手技の訓練。加えて漢方もやるなら、方剤の効果、禁忌、

鑑別、適応症状などから、生薬の組み合わせまでやることは無数にあります。読むべき書籍、資料も

２０００年分あります。内容は漢文で、その解説書も漢文です。

　本気でやるなら一生かけても足りません。それが漢方医学です。

　その苦労に比べれば、周辺知識を収集して患者さんを口車に乗せるなんて、まあ楽なものです。

つまり楽して稼ぎたい専門家ほど周辺知識を誇示してきます。技術や能力が同レベルなら、知識の

豊富な者を選ぶべきですが、知識が豊富だから技術も優れているかというと、全く関係ありません。

綺麗ごとを並べている人が人格者というわけではないのと同じです。

　しっかりした東洋医学の知識と技術を備えた先生を選んでください。いくら研究論文に詳しくても、

メスを持つ手が震えている医者の手術を受けたいですか？　

どんなに周辺知識を唱えても、身体はよくならないんです。