
【肩甲部。棘上窩。肩甲棘中点の上方に取穴する】
前回の『天宗』『秉風』『曲垣』などは、どれも肩甲骨上の棘上筋、棘下筋に取穴するため、肩部、
上腕部のトラブルに関与するツボです。その意味では似たり寄ったりの効果で、併用されることも
多いツボたちです。
ただ、これらのツボたちの中で、本穴だけはちょっと特異な性質があります。
「秉」という字には「手にする、取る、守る」などの意味がありますから、『秉風』とは「風」の
病をコントロールするというニュアンスになります。つまり風邪、中風、狂疾、瘧、緩急、癲などの
風病を主るツボだということです。

ただ、ここでいう「風」とは外部からくる風邪(外邪)を指し、内傷由来の「内風」の事ではない
とされます。風邪や中風は傷寒太陽病の類ですが、瘧は内傷からも発生し得るので、鑑別が必要だと
いうことになります。

【当院での経験】
上地栄先生は、『秉風、曲垣、肩外兪、肩中兪、天窓、天容、顴髎、聴宮』は耳と目に関係する、と
仰っていたそうです。これらは全て肩、側頚、側頭にあるツボですが、当院でも難聴や耳鳴りの方に
よく用いるツボです。

とはいえ、別にツボに耳鳴りを治す効果があるというわけではありません。肩頚の緊張が強いと
必然的に頭部への血流低下を招きますから、これらのツボが効果的であるということです。その意味
では、眼精疲労や鼻炎などでもよい効果があります。特に巻き肩からくるような腕頭動脈、鎖骨下動脈、
頸動脈の圧迫が原因となる疾患には、本穴を含め、『肩貞』『臑兪』『極泉』などの経穴も併用して、
棘上筋、棘下筋、広背筋、大・小円筋、大・小胸筋、二頭筋、烏口腕筋、胸鎖乳突筋や頚部の深部筋を
緩めて巻き肩を改善してゆく必要があります。

この原理は五十肩でも、頚肩腕症候群、頚椎症、胸郭出口症候群、肩・首コリでも基本は同じです。
本穴一穴で改善できることは少ないですが、複数の経穴を併用することで、実に様々な疾患に対応
できるようになる、臨床上外せない重要なツボなのです。

【主治・効能】
・風痛、風癆、息切れなどの風気の病を治す
・肩甲部の神経痛・痙攣・麻痺、上肢挙上不能、肋間神経痛、肋膜炎、肺炎など
・五十肩、上肢神経痛・麻痺、半身不随、頚部・肩甲部疼痛、頚肩腕症候群、頭痛、高血圧
歯痛、肋間神経痛、胸膜炎、肺炎、咽喉炎、咳嗽
・肩の痛み
・頚項部の強張り+痛み・麻痺、肩甲部の腫痛、上肢痛など
(『鍼灸孔穴類聚(松元四郎平)』『経絡経穴の近代的研究(濱添圀弘)』
『鍼灸臨床取穴図解(小野田正、池田久衛)』『鍼灸集錦(鄭魁山)』
『鍼灸経穴名の解説(高式国)』)
芦屋・西宮 鍼灸香春(こうしゅん)【JR芦屋徒歩6分】