『翳風(えいふう)』【芦屋・西宮 鍼灸香春】

【三焦経。前頚部。乳様突起下前方の陥凹部に取穴する】
今回は耳鼻咽喉疾患でよく使われるツボ、『翳風』を紹介します。
本穴は耳たぶの後ろに隠れるように位置するツボで、乳様突起の前下方にあります。「翳」は陰に隠れる
という意味がありますから、耳の後ろに隠れている本穴にはうってつけの命名といえます。
また、陰に隠れるというのは遮蔽されるという意味でもありますから、気の動きが鬱滞してしまう場所
というので『翳風』と名付けられたという説もあります。本穴に刺鍼をして、気が動き出すのを「風」に
喩えた、というのがその理由らしいです。私個人としては、命名の由来は前者が正しいように思いますが、
臨床を重ねていると、耳閉感を伴う難聴や耳鳴りには本穴がよく効くので、後者に賛成したくもあります。

【当院での経験】
これは大阪の鍼灸院に勤めていた時代のことですが、音がくぐもって聞こえるという方が来られたことが
ありました。50歳くらいの女性の方だったのですが、検品の仕事のためにずっと俯いているとのことで、
首を竦めたような姿勢の方でした。当然、首肩のコリもひどく、肩も上がらず、腰も痛む状態で、足はO脚。
このような状態の方は、実は私の得意分野でして、少し時間はかかるんですが、鍼と指圧で大体5~8割
程度は改善します。


鍼灸の適応となる耳のトラブルは、結局のところ側頭筋や胸鎖乳突筋、僧帽筋などの緊張によるもの、
頚部の緊張による椎骨動脈や頸動脈の圧迫が主です。耳小骨の脱臼や鼓膜の破損などによるものには、
ほぼ無力です。つまり筋緊張か、それによる血流低下が原因の場合が鍼灸適応です。
結局、『聴会』の深刺なども追加したおかげか、4回目で耳閉感が半分以下になったため、それから半年、
週1回のペースで来院していただき、肩部と腰部の緊張が粗方改善したタイミングで卒業となりました。
運よくこのように改善できたこともありますが、所謂ストレートネックで、血管圧迫がほぼ間違いなく
原因と分かっていながら、3カ月チャンスを頂いても、力及ばず改善できなかったこともあります。

以前に比べて今では耳鳴りや難聴も6~7割くらいは改善できるようになりましたが、どれだけ臨床を
積んでも、やはり難しい疾患だといつも思わされます。
『翳風』には表面的には後耳介動脈が分布しますが、深部には頚椎があり、そのすぐ脇を内・外頚動脈と
椎骨動脈が走行しています。中耳~内耳のすぐ近くを走行するこれらの動脈とその枝は拍動性耳鳴の原因に
なりますし、椎骨動脈は内耳動脈(迷路動脈)へ続き、中耳や内耳を栄養しますから、耳の機能低下からの
耳鳴りの原因となります。これらの動脈の血流をスムーズに担保することは、耳のトラブル解消の必須項目
だと、当院では考えています。
本穴が耳鼻咽喉の名穴たり得ているのは、解剖学的には以上のようなことが考えられるからだと思われ
ます。そう考えると、本穴は深く刺すという上地栄先生のお言葉は理にかなったものといえるでしょう。

(『慢性病の漢方・鍼灸療法(藤平健)』『鍼灸経穴名の解説(高式国)』
『鍼灸孔穴類聚(松元四郎平)』『経絡経穴の近代的研究(濱添圀弘)』
『鍼灸集錦(鄭魁山)』『経穴の使い方・鍼の刺し方(鍼灸素霊会)』)
芦屋・西宮 鍼灸香春(こうしゅん)【JR芦屋徒歩6分】


