🍵抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)【ツムラ83】

抑肝散加陳皮半夏

 

 

柴胡(苦平)、甘草(甘平)、白朮(苦温)、茯苓(甘平)、川芎(辛温)

当帰(甘温)、釣藤鈎(苦微寒)、陳皮(辛温)、半夏(辛平)

 加味逍遙散同様、更年期障害にもよく使われるのが、この『抑肝散加陳皮半夏』です。

胃腸の不調がないなら『抑肝散』として服用することもあります。

 他の更年期障害の漢方薬に比べ、本方は特にイライラの激しい方に有効です。もともと神経質

几帳面、気苦労が多いという方によく見受けられます。

 

 【抑肝散、抑肝散加陳皮半夏の病理】

 加味逍遙散もそうですが、本方も「血虚」が不調のベースにあります。「血(ケツ)」はエネルギー

ですから、労働で疲れたり、人付き合いで気疲れしたりすると消耗されます。この時に発生する熱を「虚熱」

といいます。この虚熱が原因となり、イライラ動悸、頭痛、不眠耳鳴りなどを引き起こすのです。

 『加味逍遙散』は同じヒステリー型でも、やや鬱的な所が見受けられますが、『抑肝散加陳皮半夏』

虚熱の量が多く、それに応じてイライラの度合いも大きくなっています。小児ではチック疳虫を誘発する

こともあります。また『加味逍遙散』ではあまり見られませんが、筋肉に引き攣りが強く、頚肩の痛み

腰痛にも影響を与えたりします。ストレス性の腰痛の方などはこのケースを多くお見受けします。

 発症の原理はどちらも似ていますが、その程度や影響する経絡、部位、症状によって漢方薬を使い分ける、

というのが基本となります。これは鍼灸施術もまた同じことです。

 

 【抑肝散、抑肝散加陳皮半夏の使い方】

 ここ10年ほどの研究でよく報告されるのが、アルツハイマー型認知症の方の暴力を抑制する効果に

ついてです。本方には神経興奮を抑える作用があるため、暴力性の認知症患者に用いて大きな効果を収めて

いると伺っています。私自身はまだそのような方に用いた試しがないのでわかりませんが、素晴らしい

研究成果であることは間違いないと思います。

 以上のような「虚熱」による強度のイライラ症状に胃腸不良が加わったもの『抑肝散加陳皮半夏』

適応になります。イライラだけなら『抑肝散』でも対応できます。

 これは、イライラは交感神経興奮症状ですから、慢性的に胃腸への血液供給量が低下しているために、

消化器の機能低下が引き起こされ、水分を吸収 ⇒ 排泄できず、胃腸に停滞しているのです。これを

「痰飲(タンイン)」といい、小便が出にくく、吐き気があります。食欲は意外とあります。そして臍の周囲、

特に左側に動悸を感じます。このような場合には『抑肝散加陳皮半夏』を用います。

 

 【当院での経験】

 昔、接骨院で働いていた時ですが、言動が非常に暴力的な中年男性が来院されたことがありました。

 普段はそうでもないのですが、自分が特別扱いされないと揉め事を起こすという方で、その時の院長が

紹介した病院の先生にも、ひどい悪態をついたようでした。

 主訴も腕が痛む、とのことで、ヒステリックに痛みを訴えるのですが、その時に脉を診ると非常に落ち

着いたものでした。普通、急激な痛みがある時は交感神経が興奮するので、脈管が締まり、また拍動も早く

なるものですが、これに変動がなかったということは詐病(仮病)であろうと思われました。

 つまり、この方の場合、痛みの治療は必要なく、如何に取り扱って怒りを収めるかという点が問題でした。

 東洋医学的には、怒りは熱がのぼせた状態をいいますが、この時に影響するのが「肝」です。肝の熱が

表裏関係にある「胆」に伝わって頭にのぼせ、イライラ頭痛、めまいとなるのです。この熱の事を特に

「肝火」と呼びます。この「肝火」を収めるのが本方『抑肝散』というわけです。

 この方にも『抑肝散』を勧めてみたのですが、2週間ほどでかなりイライラが減ったようで、ボルテージ

が “怒り” から “文句” 程度に落ち着いたことがあります。流石に仏様のようにとはなりませんでしたが、

鍼灸施術をしやすくなって大いに助かりました。

 この例でもうひとつわかることは、この男性は意外に真面目だということです。揉め事を起こすタイプで、

自分勝手な人にもかかわらず、勧められた漢方薬はちゃんと飲んでいるんですね。こうしたイライラ型は

単純に暴力的なだけの人もいますが、意外と生真面目で、そのため上手く物事が行かないと過剰に過敏に

なるという方が多く見られます。『抑肝散』はこれらのタイプに奏功するのです。

 

 【適応疾患】

 肝の熱が上半身へのぼせるため、高血圧めまい不眠、過度のイライラ、肩こり動悸などの遠因と

なり、『抑肝散』はこれらの症状を主治します。こうした症状は更年期の方にもよく見られるため、本方は

更年期障害の主薬の一つとなっています。

 そもそも、強烈な肝の熱である「肝火」は、元を辿れば「血虚」による「虚熱」です。「血(ケツ)」は

身体の組織を栄養し、潤すという作用がありますから、「血虚」を引き起こすと筋肉は乾燥して引き攣り

痙攣、過度の緊張をおこします。これが肝の熱による腰痛、ぎっくり腰の正体です。頚部捻挫、

寝違え、歯軋り、肋間神経痛、坐骨神経痛、半身不随などにも直接、間接に関与します。

 小児の夜泣き、疳虫、ヒキツケ、爪噛み、チック、トゥレット症候群なども同じような原理ですので、

本方が有効です。

 勘違いしてはいけないのは、これらの症状になら無条件で本方効くというわけではないということです。

特定の条件(「証」といいます)でこそ効果があるのです。この「証」を見極めるための診断がとても重要

なので、まずは専門の漢方店などに相談すべきでしょう。

 本方はほかにもノイローゼや自律神経失調症、性欲過剰、男性不妊などにも応用されます。

 これらに症状に胃の痞えや嘔吐感、膨満感などを取名うようであれば、「半夏」と「陳皮」を加え、

『抑肝散加陳皮半夏』として処方することが適切です。

 

(『漢方医学体系(龍野一雄)』『漢方常用処方解説(高山宏世)』

 『大塚敬節著作集』『中医臨床のための方剤学(神戸中医学研究会)』

 『漢方主治症総覧(池田政一)』より)

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