🍵三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)

三黄瀉心湯

 

 

大黄(苦寒)、黄芩(苦平)、黄連(苦寒)

 高血圧の代表的漢方薬といえば本方『三黄瀉心湯』『黄連解毒湯』でしょう。どちらも高血圧のみ

ならず、動悸精神的不安不眠肩こり、のぼせなどにも有効な方剤であり、処方の内容もよく似て

います。極論してしまえば、臨床的には両方は同じような効果があり、便秘の有無で使い分けるというのが

一般的です。

 本方には瀉下剤である大黄が含まれるため、便秘がある場合に用いられます。便秘のある方に『黄連解毒湯』

を用いてもあまり効果は望めませんし、逆に便秘のない方に本方を用いれば、血圧は下がるかもしれませんが、

不必要な下痢を誘発して胃腸機能にダメージを与え、体力を失わせる結果になることが懸念されます。

また、同じ下剤だからと麻子仁丸などを服用しても、便秘が下れば多少は楽になりますが、熱がのぼせる

という状態の改善には至らないため、やはり不十分な結果に終わると予想されます。

 やはり漢方薬は患者の方の身体に合わせたものを服用する必要があるということです。

 

 【三黄瀉心湯の病理】

 上半身全般に熱がある症状に用いられます。そのため、動悸ノドや口の渇き肩こりなどの症状にも

有効です。熱が頭にまで侵入すると、逆上せを発症し、頭痛、めまい耳鳴りの原因となり、ひどい場合は

癲癇(テンカン)や精神不安、ノイローゼ、統合失調症をも誘発します。このような症状に『三黄瀉心湯』

は用いられますが、熱が上半身へ上る原因が便秘にある場合にこそ有効な漢方薬です。

 便秘があるため熱が降らず、上部へと充満してしまっている状態です。腎陰虚などがベースにあり、

その虚熱が少陰経を通じて心、心包の熱となっているのに加えて、腎の水が足りていないために陽明の熱

となって、胃腸を乾燥させています。そのため、イライラ興奮、独り言、多言などの特徴があり、発散

されない熱が蕁麻疹口内炎、口臭の原因となっていたりします。

「陽明の熱による便秘と心熱による高血圧」があるのが特徴であり、不用意に便秘下しとして使うと、

下痢が長引いたり、食欲不振倦怠感、動悸、得体のしれない恐怖などを誘発してしまうかもしれません。

 

 【三黄瀉心湯の使い方】

 単純に陽明に熱があって便秘をしているというだけで、動悸高血圧のような上半身の症状が目立たない

なら大承気湯、小承気湯を選びます。

 症状がほぼ同じで便秘がないなら、下す必要はないので『黄連解毒湯』が適応します。

 同じような症状があっても肋骨の下が張るような「胸脇苦満」がある場合は、少陽経にも熱が入っている

ので、同じ下剤でも大柴胡湯を使います。便秘がないなら小柴胡湯でよいでしょう。

 便秘の原因に水分不足が大きく関わるような場合なら麻子仁丸『潤腸湯』がよいでしょうし、

腎の陰虚が強く関与するなら『六味丸』で遠回りに解決する方法を選ぶこともあります。

 

 【当院での経験】

 7月頃に熱中症でめまいを起こしたという方が、病院で『苓桂朮甘湯』という漢方薬をもらったけれど、

あまり効果がないとのことで来院されました。

 よく話を伺ってみると高血圧で、慢性便秘、不眠、不整脈もあるという方で、仕事の都合上、トイレに

行けないらしく、よく汗をかくのに水分は控えめにしているとのことでした。

 どうも『苓桂朮甘湯』は適合しているようには思えなかったので『三黄瀉心湯』を指導して、便秘を

下すことを主眼に置いて施術しました。よく働いて、汗もかくわけですから、腎水の涸渇がまずあって、

そのための少陰経の熱と血虚虚熱が動悸、便秘、高血圧の原因となっているのだろうと推測できました。

 ただ、いかに鍼灸施術や漢方処方が適切であっても、本質的に水分が足りていないと、無から有を

生み出すことはできないので、施術効率は上がりません。食事指導とこまめな水分補給をお願いして、

約1か月後には高血圧、不眠、めまいは安定できました。特に便秘は腎経の陰谷がよく効いた

ようで、やはり便秘が下ると一緒に上半身の熱も下り、血圧、睡眠、めまいも並行して改善しました。

 約1ヵ月の施術で各症状は安定できたのですが、便秘だけは水分補給を怠って発汗がかさむと、再度

発症したりします。高血圧や動悸、めまいはとりあえず改善したため、現在は『三黄瀉心湯』を中止

して、『調胃承気湯』四物湯に変方して現在も治療中です。

 

 【適応疾患】

 上半身に熱が上るため高血圧、脳出血、頭重、耳鳴り肩こり、のぼせ、眼底出血、鼻血、吐血などの

物理的な症状から、神経衰弱、ノイローゼ、癲癇、統合失調症、精神不安のようなメンタル的な症状にも

適応します。熱の上昇には臭いも伴いますから、口臭や口苦症状にも有効です。

 「黄連」「大黄」は非常に苦いため、血管収縮作用があります。この性質を利用して、出血性疾患に

効果があります。皮下出血、痔疾、血尿、血便、打撲、外傷に用いられます。

 「大黄」は瀉下作用の強い生薬で、体内の熱をまとめて便と一緒に排泄できます。便秘や蕁麻疹、

口内炎、舌炎、歯痛、二日酔いなどのような熱性症状に有効です。

 

(『漢方医学体系(龍野一雄)』『漢方常用処方解説(高山宏世)』

 『中医臨床のための方剤学(神戸中医学研究会)』『漢方主治症総覧(池田政一)』より)

 

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