大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)
大黄牡丹皮湯
大黄(苦寒)、牡丹皮(辛寒)、桃仁(苦平)、冬瓜子(甘平)、芒硝(苦寒)
『大黄牡丹皮湯』は虫垂炎に使うとされる漢方薬ですが、その応用範囲は非常に広いものとなっています。
例えば痔痛や肛門周囲炎、前立腺炎、子宮付属器炎などに対応しています。骨盤内の炎症全般に効く、という
イメージが正しいかもしれません。
ただし、漢方薬の常で、骨盤内の炎症になら無条件でなんにでも効くというわけではありません。
まず腹部に、強い熱のために血液が凝集して、コブのようになって溜まっています。そのため右の下腹部を
手で圧迫すると堅くなっており、激しい痛みがあります。漢方医学では、この血液が凝集してできた塊を
「瘀血(オケツ)」と呼んでいます。
この「瘀血」が腸の交通を悪化させ、その熱で炎症を引き起こしているため、瘀血を排泄させて身体を
回復させるというのが、本方の狙いになります。その意味では『桃核承気湯』に似ているといえますが、
本方は排尿しようと下腹に力を籠めると痛みがあるため、多くは自然と小便をしにくくなっています。
【大黄牡丹皮湯の病理】
実際には本方が適用されるような状態は、色々な条件で成立します。ただ、本方の設計趣旨を考えると、
辛味成分の「牡丹皮」が主役の漢方薬ですから、循環と発散が足りていない状態だと分析されているのだと
思われます。そこに腸の熱を冷まして潤す「大黄」や「芒硝」を加えているので、循環・発散不足で腸内に
停滞した熱を排除して、熱で炎症を起こした大腸を冷まして潤わせるための漢方薬なのだといえます。
漢方医学で発散は肺の機能であり、その作用を促すのが辛味成分です。つまり肺の機能低下が根底にあり、
そのために熱が停滞しているだけなら「桂枝」などでも対処できます。しかし、本方の適応証のように
瘀血の塊を形成する程にまで悪化してしまった場合は、「大黄」「芒硝」でそれを排泄してしまう必要が
あるということです。
本方の特徴は「太陰の気滞によってできた腸熱による瘀血+便秘と小便不利」といえると思います。
【大黄牡丹皮湯の使い方】
体力有るタイプの方向け。右下腹部に強い自発痛・圧痛があります。便秘傾向があって、小便が出にくい、
といった特徴のある方に使います。女性生殖器の炎症にも使えるため、不妊治療にも効果があります。
私の場合、熱量が多いための炎症性疾患がある場合に使うようにしていますが、このようなケースは、
多くの場合が病院適用ですので、まずは検査を受けていただいています。また、排便促進作用もありますが、
いわゆる便秘の方には使っていません。使えないこともないと思いますが、便秘の原因は大体が「陰虚」と
呼ばれる水分や身体の冷却システムの不調、不足によるものか、「湿邪」や「寒邪」による胃腸の機能不全
なので、熱の過剰亢進に使うべき本方はあまり使うタイミングがありません。
(『漢方医学体系(龍野一雄)』『金匱要略解説(金子幸夫)』『薬方愚解(木田一歩)』
『中医臨床のための方剤学(神戸中医学研究会)』『漢方主治症総覧(池田政一)』より)
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